美しい緑に囲まれたゴルフ場ですが、その運営には大量の水や農薬、土地開発が必要とされるため、自然環境への負荷が懸念されています。実際、日本の全ゴルフ場の総面積は大阪府ほどにもなり、広大な緑地は自然保護に貢献する一方で、大規模な土地造成や生態系への影響を懸念する声もあります。さらに、近年では省エネ設備や有機的な芝生管理といった環境配慮型の取り組みも進んでいます。
本記事では2025年時点の最新情報を交え、ゴルフ場が引き起こす環境破壊の実態や課題、そして環境対策について詳しく解説します。
目次
ゴルフが引き起こす環境破壊の実態
日本には約2,100以上のゴルフ場があり、総面積は約27万ヘクタールとされます。この広大な敷地は、全国の住宅地総面積や佐賀県の面積にも匹敵する規模です。そのため、多くの人が「ゴルフ場は環境を破壊している」と指摘してきました。特にバブル期にはゴルフ場開発が拡大し、農薬使用や森林伐採などが問題視されました。しかし最近では農薬の使用量が大幅に削減されるなど改善も進んでおり、環境影響の実態を冷静に捉える動きが出ています。
ゴルフ場の規模と土地利用の実態
ゴルフ場は18ホールの規模で東京ドーム約100個分にも相当する広大な土地が必要とされます。そのため、開発には山林の伐採や平地造成が伴います。しかし近年、公的規制によってゴルフ場開発時にも森林を一定割合以上残すことが義務づけられ、過度な伐採が抑制されています。例えば、多くの自治体では「残地森林率40%以上、森林率50%以上」をゴルフ場開発の基準とし、元々の森林や新たに植樹した樹林を合わせて規定以上確保する必要があります。その結果、多くのゴルフ場ではホール間にも木々が数多く残されており、一面まるごと芝だけというわけではありません。
過去の環境問題批判と現在の状況
1990年代までは、ゴルフ場から川や農地への農薬流出が社会問題になりました。1990年には厚生省と環境庁がゴルフ場農薬指針と水質基準を策定し、農林水産省から適正使用を促す通達が出されました。その結果、ゴルフ場でも飲料水レベルの水質を維持する努力が進み、現在は以前ほど農薬による汚染が叫ばれることは少なくなっています。実際、神奈川県の調査では、1989年に比べ2022年のゴルフ場農薬総使用量が約半分に減少したことが報告されており、農薬の成分も環境負荷の少ないものに改良されています。一方で「ゴルフ=悪」というイメージはいまだ残っており、過去の批判は風化しつつあるものの、根強い誤解を解く必要もあります。
ゴルフ場建設と森林・土地への影響

ゴルフ場建設は森林伐採や地形変更を伴うため、自然環境に大きな影響を与えます。山間部を開拓してコースを造成する場合、新たに木を植え直すとはいえ、元々の生態系が一時的に破壊されるのは事実です。例えば森林を伐採すると保水力が低下し、豪雨時には土砂災害が起きやすくなります。しかし現代のゴルフ場ではこうしたリスクを緩和するために複数の対策が講じられています。
ゴルフ場開発時の主な環境負荷としては、
- 森林伐採による生息地の喪失
- 平坦化や排水工事による土壌浸食・水質変化
- 造成地からの土砂流出リスク増大
などが挙げられます。ただし、開発には規制があり、造成後には必須で植栽を行うほか、土砂災害防止のために調整池(防災ダム)を設置するゴルフ場がほとんどです。これにより、大雨時でも水が急激に流れ出ないように制御され、下流域への土砂流出や洪水被害が抑えられます。
残地森林率・森林率と防災対策
ゴルフ場開発には「残地森林率」および「森林率」という概念があります。残地森林率は開発前に存在していた森林のうち造成後に残す割合を示し、森林率は敷地全体における森林の割合(造成後に新植したものも含む)を示します。多くの都道府県では残地森林率40%以上、森林率50%以上を定めており、ゴルフ場開発ではこの基準を遵守しなければなりません。その結果、コース内には木立が数多く残っており、たとえフェアウェイやグリーン部分は切り開かれていても、周囲には元の樹木や植栽がしっかり確保されています。
また、ゴルフ場にはしばしば調整池(ため池)が設けられています。これらは普段は競技用水や池として利用しつつ、豪雨時には一時的に雨水や排水を溜める防災ダムの役割を果たしています。山の斜面を開いたコースでは、放水口やダムによって水流がゆるやかになり土砂災害を防止できます。このように、近年は自然災害対策も含めた環境保全がゴルフ場設計に組み込まれており、ただ伐採するだけではなく、造成後にしっかりと自然を再生させる仕組みが整えられています。
ゴルフ場の水使用量と環境への負荷

ゴルフ場では、競技品質を保つために芝生への散水が不可欠です。特に夏場は蒸発量が多く、コース全体に引き渡す水は一日で数百トン単位に達することもあります。この大量の散水により、地下水や地域の水道水が常時大量に取られるため、水資源の負担になります。実際、水源地に近い場所にゴルフ場があると、その周辺の地下水位が下がる事例も報告されています。また、芝生管理に用いる農薬や肥料は雨で川や地下水に流れ込み、水質汚染のリスクを高める要因になります。過剰な地下水くみ上げは地盤沈下の原因にもなるため、一部地域ではゴルフ場の水利用が社会問題化しています。
散水による水不足と対策
水不足の問題に対応するため、近年では節水を目的とした技術や運営方法が導入されています。たとえば、センサー付きのスマート灌漑システムを使って実際に必要なときにだけ適量の水を撒くことで、無駄な散水を減らします。また、多くのゴルフ場ではため池に雨水を溜めておき、そこからコースへ散水する雨水利用システムを導入しています。この方法は大量の水を使用するコースにとって大きな節水効果を生みます。さらに、芝草の品種改良も進んでおり、乾燥に強い品種を採用することで散水量を削減する取り組みが広がっています。
水管理と持続可能性
これら節水に加え、ゴルフ場では水管理の意識向上が進んでいます。例えば、年間の水使用量を公開対象としたり、地域の給水状況に応じて散水スケジュールを調整したりする取り組みも見られます。また、水質汚染への対策として、排水路に植生帯や湿地を設けて農薬成分をろ過する方法や、水質調査を定期的に実施する事例もあります。これらによってゴルフ場運営が地域の水環境への影響を最小限に抑える努力をしていることがうかがえます。
ゴルフ場での農薬・化学物質使用問題
かつてゴルフ場に対する批判の中心となっていたのが農薬や化学肥料の大量使用でした。バブル期の1980〜90年代、新設コースの芝生管理には即効性の強い農薬が多用され、降雨後に河川へ流出して周辺の田畑や漁業に悪影響を及ぼした事例もあります。その結果、1990年に厚生省や環境庁が水道水・河川基準を定め、国がガイドラインを策定してゴルフ場の農薬使用の適正化が進められました。
農薬使用量の変化と行政指導
この行政の働きかけにより、現在ではゴルフ場でも農薬使用量が大幅に減少しています。例えば神奈川県では、1989年の成分換算で約6万トンだったゴルフ場の農薬使用量が、2022年には約3万トンに半減しました。この背景には、近年の農薬自体の性能向上(持続性が高く量が少なくて済むものへの切替)や、経費削減の観点から散布量を抑える工夫が貢献しています。また、地元の農業協同組合(JA)と連携して農薬を購入する事例も増えており、グリーン周辺に使う薬剤の種類や量が近隣の田んぼと同等かそれ以下となるケースが多くなっています。
環境に優しい資材と管理技術
併せて、環境への配慮から新たな資材や管理方法が取り入れられています。具体的には化学合成農薬に替えて天然由来の防除剤や、芝生に必要な栄養素を持続的に放出する高機能肥料が用いられ始めています。さらに、コース管理は地元のスタッフが担うことが多く、経験を通じて可能な限り農薬散布を減らす技術が蓄積されています。これらの努力により、現在では「ゴルフ場の農薬問題はかつてほど深刻ではない」と評価されるようになってきました。
ゴルフ場拡大による生物多様性への影響

ゴルフ場の大規模な開発は、生物多様性にも影響を与えます。一方では、整備された緑地が里山的な生息環境として機能し、野生動物の貴重な生息地となる例もあります。例えばコース内の樹木や植生が適度に管理されることで、かつての里山と似た環境が再現され、タヌキ、ウサギ、シカ、イノシシといった哺乳類から、オオタカやハヤブサなどの鳥類、あるいは昆虫類・水生生物まで多くの生物が確認されています。このようにゴルフ場は、広大な草地や林、池といった多様な環境を持つため、結果的に生物多様性の保全に寄与するとの指摘もあります。
ゴルフ場に広がる里山環境とそのメリット
環境再生の専門家によれば、「ゴルフ場が生む里山効果は環境破壊ではなく、むしろ環境保護に役立っている」という意見が一般的になりつつあります。コース管理では定期的な間伐や下刈りを行うことで森林の健全性を保ち、土砂災害予防にもつながっています。結果として、ゴルフ場内外に豊かな植物が育ち、それを餌とする昆虫や小動物、さらにはそれらを狙う猛禽類など、都市部周辺では減少傾向にある生態系が育まれる例も増えています。つまり、手入れされたゴルフ場は「緑のインフラ」として機能し、都市近郊の生物多様性を支える役割を果たしているのです。
野生動物の増加と近隣農作物への影響
ただし、環境が良くなりすぎるがゆえの新たな課題も生じています。例えば、近年ではイノシシやシカ、サルなど野生動物がコースに頻繁に出没して芝生やフェアウェイを荒らし、近隣の農地では作物被害が増える事例が報告されています。これらの動物はコース内にエサや隠れ場所が多いために増えすぎており、結果的に人里との軋轢(あつれき)も生んでいます。ただ、これも「豊かな自然環境がもたらした現象」とも捉えられ、対策としては電気柵の設置や樹木帯の強化など、野生動物と共存するための工夫が進められています。
気候変動がゴルフ界にもたらす影響
気候変動はゴルフ場運営にも深刻な影響を及ぼしています。英国で発表された調査によれば、冬季の降雨量増加によりゴルフ場のコースが利用不能になる日数が増加し、冬期間の閉鎖事例も増えつつあります。また、海面上昇や台風などの影響で海岸沿いのリンクスコースは侵食に直面しています。有名なモントローズ・ゴルフリンクスでは過去30年で北海がコース内に70メートルも迫り、いくつかのホールは再造成を余儀なくされています。さらに記録的な豪雨や猛暑増加によりフェアウェイやグリーンの芝生がダメージを受ける事例も報告されており、世界的に見てゴルフは気候変動の影響を受けやすいスポーツといわれています。
激甚化する豪雨・降水量増加の影響
具体例として、英国では2016-17年シーズンにおいてゴルフ場の利用時間が10年前と比べて約20%も減少したというデータがあります。集中豪雨によってコースが水浸しになり、芝が剥げたり、砂が流出する被害が頻繁に発生しています。気候連合の報告では、近年は秋冬の降水分量が増加し、プロトーナメントでも中止や延期が相次いでいます。また、気温上昇に伴い芝の病気やカビも増えており、防除や養生コストが増大していることも指摘されています。
沿岸ゴルフ場の浸食と海面上昇
海岸近くに位置するゴルフ場は、海面上昇と高潮のリスクに直面しています。たとえば、北海に面したコースでは過去数十年で海岸線が後退し、数ホールが海岸侵食により使用不能になりつつあります。温暖化により台風や嵐が強大化することで、ラフに海水が入り込み、コース設計の抜本的な見直しを迫られるケースも出ています。こうした自然災害への対策として、多くのリンクスコースでは防波堤の強化や砂浜の補修などに取り組んでおり、気候変動に対応したコース管理が急務となっています。
サステナブルなゴルフ: 環境保全の取り組み
こうした課題を受けて、ゴルフ場では環境への配慮を前提としたサステナブル運営が進められています。ロイヤル&エンシェントGC(R&A)が提唱するサステナブルゴルフの理念では、「限られたリソースの中でゴルフの質と自然保護を両立させる」ことが目標とされています。多くのゴルフ場がGEO認証(持続可能なゴルフ場認証)や日本独自の「G認証」を取得しており、環境保全・地域貢献・気候変動対策に貢献した運営を評価されています。
国際認証と環境管理の事例
GEO認証は世界的な環境認証で、ゴルフ場の生物多様性保全や資源管理を審査するものです。国内でもG認証に取り組むコースが増えており、例えば東急系のゴルフ場では針葉樹林や里山環境を積極的に復元しており、高評価の認証を取得しています。さらに、節水型機器への更新(スプリンクラーのインバータ制御やAI散水システム)、グリーン環境教育の実施、周辺農家との連携による農薬適正化協定など、具体的な事例が各地で報告されています。
国内の環境保全活動・地域連携
国内では『ゴルフ緑化促進会』などの団体が、ゴルフ場の緑を生かした自然保護や地域貢献活動を行っています。例えば、コース内の伐採木を薪や堆肥にリサイクルしたり、練習場のボール回収金を被災地支援に充てるといった事例があります。また、SDGsの視点から地域の生態系保全に役立つ取り組みも活発化中です。こうした活動により、ゴルファー自身が楽しみながら自然保全に寄与する仕組みが形成されており、ゴルフ場が地元コミュニティや環境と共生するモデルが生まれています。
まとめ
ゴルフ場は広大な緑地を持つ施設であり、過去には農薬や開発による環境破壊が懸念されましたが、現在では法律や技術の進展により以前ほどの負荷は低減しています。一方で、大量の水消費や気候変動への脆弱性など新たな課題も浮上しています。環境対策としては、水循環システムの導入や省エネ管理、環境認証の取得などが進み、多くのゴルフ場が自然保護活動に取り組んでいます。今後も最新の管理技術や生態系保全策を取り入れることで、ゴルフと自然環境の両立が期待されます。