ゴルフ場は広大な緑地で自然に囲まれた憩いの場というイメージがありますが、その造成や維持管理が環境に与える負荷について懸念の声も上がっています。
本記事では「ゴルフ場が環境破壊をもたらす原因と最新対策」というテーマで、ゴルフ場と環境の関係を多面的に探ります。最新の調査結果や専門家の見解を交えながら、2025年時点での注目情報をわかりやすく解説します。
目次
ゴルフ場が引き起こす環境破壊の実態
日本には現在約2100のゴルフ場があり、それらを合わせた面積は27万ヘクタール以上に上るとされます。単一の18ホールコースが東京ドーム100個分にも匹敵する広大なため、その開発や維持は環境に大きな負荷を及ぼしかねません。かつてはバブル期のゴルフ場開発ブームの時代に、自然破壊と農薬散布が深刻視され、地方で建設反対運動が広がった歴史があります。しかし近年ではコース数は約2120(2023年時点)に減少傾向にある一方で、環境意識の高まりから業界側による対策も進んでいます。ここでは、ゴルフ場が抱える具体的な環境問題を確認します。
農薬・化学物質による水質汚染と生態系への影響
ゴルフ場では芝の生育を促すために農薬や化学肥料が使用されますが、これらの物質は土壌に残留したり雨水に流出したりして水質汚染を引き起こすことがあります。実際、かつては降雨時にゴルフ場から排出された化学物質が地下水や河川に流れ込み、下流域の養殖や農作物に悪影響を及ぼした事例が報告されました。水中の有害物質は魚介類や水生昆虫など生態系にも影響を与え、生物多様性を脅かすリスクがあります。ただし近年は環境省が1,730か所以上のゴルフ場排出水を調査し、水質の安全基準を超えるケースは非常に少なくなっています。農薬の化学構造の改良や散布基準の強化、監視体制の整備などにより、過去のような深刻な汚染リスクは大幅に低減しています。
大量の水資源消費と水不足の問題
ゴルフ場はコース全体を緑豊かに保つため、大量の灌漑(かんがい)用水を必要とします。夏季の乾燥時には1日数百トンもの水を使用する例もあり、地域の水道資源や地下水に大きな負担をかけることがあります。特に水不足に悩む地域ではゴルフ場の水利用が周辺農業や家庭の水需要と競合し、供給不足の要因になることも指摘されています。こうした水資源の過剰消費は、乾季に乾燥化や森林火災のリスクを高める可能性もあります。ただし近年ではスプリンクラーの節水型化や水循環システムの導入、芝生面積の縮小などによって、水使用量を削減するゴルフ場も増えており、水資源管理への取り組みが進んでいます。
森林伐採や土砂災害のリスク
ゴルフ場建設の際には山林が切り開かれるケースも多く、森林の伐採や地形の大規模改変が自然環境に影響を与えます。急傾斜地で森林を伐採すると、降雨時に泥や土砂が流出しやすくなり、周辺地域で土砂崩れなどの災害リスクが高まります。実際、過去にはゴルフ場の造成が原因で山の斜面が崩れ、近隣の住宅地に被害が及んだ例もありました。こうした開発行為は一度進めると自然復元が難しいため、造成時には土留めや緩和措置が重要です。また、多くのゴルフ場には豪雨対策として「調整池」を設け、水害防止の役割を果たす工夫が導入されていることもあります。
その他の環境負荷(CO2排出など)
ゴルフ場の維持には草刈り機やゴルフカート、管理機械など多くの機械が必要で、それらが化石燃料を消費します。これらの機械稼働や施設の照明には電力も使われ、結果的に二酸化炭素や排ガスが排出されます。また、施設建設や芝生の管理に使われる資材の製造・運搬にもエネルギーがかかります。こうしたCO2や排ガス排出も環境への負荷要因の一つです。ただしゴルフ場は屋外緑地であるため、課題解決策として電動クラブカートや省エネ機器の導入、太陽光パネル設置による再生可能エネルギー利用などが進められています。
ゴルフ場運営がもたらす環境への負荷

ゴルフ場の運営段階でも様々な環境負荷が生じます。日々のメンテナンスやサービス提供に伴う資源消費をいかに抑えるかが、環境対策のポイントです。以下では、ゴルフ場運営に伴う主な環境負荷とその低減策を見ていきます。
農薬・肥料使用量の低減
ゴルフ場では高品質な芝生を維持するため肥料や農薬を適切に使用しますが、その使用量は環境への負荷に直結します。近年は芝生病害虫に強い品種の導入や、必要最低限の低毒性農薬の散布により使用量を削減する取り組みが広がっています。また、土壌検査に基づく肥料施用や、糖蜜など天然由来成分を活用した土壌改良も行われるようになりました。これにより、過剰な薬品投入による周囲環境への影響を抑える工夫が進んでいます。
節水・排水処理の強化
ゴルフ場では節水技術の導入が急速に進んでいます。最新のスプリンクラーシステムは雨量や地温に応じて散水量を自動制御し、必要な時しか水を使いません。さらにコース外の排水を浄化して再利用するシステムや、地下水位モニタリングによる節水管理も増えています。こうした技術によって水利用量を削減し、排出水に含まれる残留物の処理を徹底することで、地域の水質保全に配慮した運営が可能になります。
エネルギー効率化・CO2削減
ゴルフ場ではクラブカーの電動化や、管理作業用の電動芝刈り機導入が進んでいます。またクラブハウスや照明には高効率LEDを備え、太陽光パネルを設置する事例も増えています。こうしたエネルギー効率化や再生可能エネルギーの積極導入により、運営に伴うCO2排出量を削減する動きが広がっています。カーボンオフセットやグリーン電力契約を活用するゴルフ場もあり、温室効果ガス低減の取り組みはますます注目されています。
廃棄物の削減とリサイクル
ゴルフ場では、ラウンド中に出る生木の剪定枝や、運営で出る生ごみ・プラスチックなどの廃棄物管理にも配慮が必要です。一部のゴルフ場では剪定枝をチップに加工してコースの堆肥に再利用したり、レストランでは地産地消を進めて食材廃棄の削減に取り組む事例もあります。また使い捨てプラスチックの削減や分別回収を徹底し、リサイクル率を高めることで、ゴルフ場運営全体の環境負荷を低減する努力が行われています。
ゴルフ場建設による自然破壊の課題

ゴルフ場を新たに造成する際には、山林や丘陵地などの自然地形を大規模に改変する必要があります。その過程での環境への影響についても、建設段階から対策が求められます。
森林伐採と残地森林比率の規制
かつてはゴルフ場造成で大規模に森林が伐採されることが問題視されました。現在は多くの自治体でゴルフ場造成に関して「残地森林比率(元の森林面積に対して残す割合)」と「森林率(敷地全体に対する森林面積)」の基準が設けられており、たとえば残地森林比率を40%以上、森林率を50%以上と定める例が一般的です。つまり造成後も敷地の大半に樹木を残し、必要に応じて植林を行うことが義務づけられています。こうした規制と植栽によって造成時の森林破壊を最小限に抑え、将来的な環境負荷の軽減につながっています。
土砂災害などの地形変化
ゴルフ場造成では地面の大規模な切盛り作業が伴うため、奥山や斜面を削って平坦地を造成することがあります。こうした土地造成は土壌の流出を招きやすく、豪雨時には土砂崩れや洪水リスクを高めます。現在は造成地に擁壁を設けたり、大雨時の雨水を調整・貯留する貯水池(調整池)を用いた土砂災害対策が講じられるのが一般的です。また、造成設計段階から地盤を強化する技術や植生マットによる土砂流出防止策などを導入し、安全面にも配慮することが求められています。
生物多様性への影響
元々山林や湿地だった場所を開発する場合、そこに生息していた植物や動物が住処を失う懸念があります。たとえば湿地帯の造成では水辺の生き物への影響が指摘され、生態系の均衡が崩れることもあり得ます。このため、最近のゴルフ場開発では生息地の保全を意識したゾーニングが行われ、コース設計時に元からあった植生を残す工夫がなされています。さらに、コース周辺に緩衝地帯として木々や水辺を残し、野生動物が移動できる回廊を確保するなど、生物多様性に配慮した開発事例も増えています。
環境保全に向けたゴルフ場の取り組み
ゴルフ場業界では、環境への負荷を抑え持続可能性を高めるための取り組みが進んでいます。政府や自治体の指導の下、各ゴルフ場では独自の環境マネジメントや最新技術の導入が行われています。
法規制と行政指導
国や地方自治体はゴルフ場の開発や運営について環境保全のガイドラインを策定しています。先述の森林比率規制もその一例ですが、排水認可や水質基準の遵守も求められています。環境省は2023年度に全国ゴルフ場を対象とした水質調査をまとめ、排水中の有害物質が一定基準以下であることを報告しています。地方自治体もこれに沿って適時監視・指導を行い、違反時には行政指導や是正命令が発せられます。こうした法規制や行政の目によってゴルフ場の環境管理は厳格化され、基準遵守が徹底される仕組みが整っています。
ゴルフ場の独自環境プログラム
多くのゴルフ場ではISOなど国際標準に則った環境マネジメントシステムを導入し、計画的に環境負荷の低減を図っています。コース整備においては農薬使用量のモニタリングや散布計画の見直しが進められ、必要以上の薬剤散布を避ける努力がなされています。また、雨水タンクやグレー水(排水)の再利用設備を設置し、排水管理を厳格化するコースもあります。さらに、省エネ照明や太陽光発電、バイオ燃料利用といった先進的取り組みを採用し、ゴルフ場運営全体の環境負荷を低減しようとする動きが活発化しています。
地域・教育活動による環境意識向上
ゴルフ場は地域社会との関わりの中で環境教育や地域貢献活動も行っています。たとえばゴルフ場主催の植樹イベントやコース整備ボランティアでは会員や地域住民が参加しながら自然保護活動を学ぶ機会を提供しています。ジュニア向けの自然観察プログラムや、普段ゴルフをしない市民を招待したグリーン保全体験など、教育的な取り組みも進んでいます。こうした活動を通じて、利用者や地域住民の環境意識が高まり、ゴルフ場と地域が一体となった環境保護の輪が広がりつつあります。
従来型ゴルフ場と環境配慮ゴルフ場の違い
| 比較項目 | 従来型ゴルフ場 | 環境配慮ゴルフ場 |
|---|---|---|
| 森林・植生の保全 | 造成前の森林を最低限残す | 積極的に植林・緑化を実施 |
| 農薬・化学肥料 | 多量使用しがち | 使用量を厳格にコントロール |
| 水の使用 | 大量の灌漑水を使用 | 節水技術や再生利用で削減 |
| エネルギー | 化石燃料依存が中心 | 再生可能エネルギーや電動機器を活用 |
| 廃棄物管理 | 分別やリサイクルが不徹底 | 徹底したリサイクルと生ごみ削減 |
上表のように、環境配慮型ゴルフ場では従来よりも高い基準で自然環境保護や資源削減に取り組んでいます。規制遵守にとどまらず、自主的な環境プログラムを策定し、運営方法を改善する事例が増えています。
持続可能なゴルフ場管理の先進事例

ここでは海外と国内で注目されるサステナブルなゴルフ場の事例を紹介します。
海外のサステナブルゴルフコース事例
米国には環境対策の先進的なゴルフ場が複数あります。パインハーストNo.2(ノースカロライナ州)は効率的な灌漑システムにより水使用量を従来より65%削減し、35エーカー以上の芝生を撤去してネイティブグラスの再生に取り組みました。クエイルリッジCC(フロリダ州)はプレーエリア外の多くを自然植生ゾーンとし、芝刈り機洗浄水をリサイクルする設備を導入しています。また農薬は天敵生物を活用して最小限に抑え、有機物と土壌測定に基づく芝管理で薬剤使用を減らす工夫をしています。ベア・トレース・コース(テネシー州)は50エーカーの土地を新しい自然生息地に戻し、年間約750万ガロン(約28万トン)の節水に成功しました。さらに地元気候に適した芝への変更やEV管理車の導入により、燃料使用を大幅に削減しています。これらの事例は「持続可能なゴルフ」の具体例として世界的に注目されています。
国内の環境配慮事例
日本国内でも環境配慮に取り組むゴルフ場が増えています。たとえば、あるゴルフ場では会員参加型のコース管理を行い、ボランティアによる下草刈りや植樹で森林を保全しています。また、水道水ではなく再生水や雨水の貯留利用を拡大し、灌漑水量をほぼ半減させたコースもあります。クラブハウスの屋根に太陽光発電パネルを設置して電力をまかなう事例や、バイオガスボイラーを導入して暖房を再生エネルギー化したケースもあります。さらに、国や業界団体が推進する「ゴルフ場緑化基金」などに参加し、種子の配布や緑化イベントで地域の緑化活動に貢献するゴルフ場もあります。これらの国内事例は、SDGsを意識した運営が確実に広がっていることを示しています。
ゴルフ場が果たす環境機能と社会貢献
ゴルフ場は確かに環境への負荷も伴いますが、一方で「緑地」としてのメリットを持つことも指摘されています。ここではゴルフ場がもたらすポジティブな側面について触れておきます。
大気浄化と二酸化炭素吸収
広大な芝生や木々を有するゴルフ場は、市街地に比べて二酸化炭素を多く吸収し酸素を供給する役割があります。例えば、複数のゴルフ場を運営する企業の試算では、年間で数万トン単位のCO2吸収量に相当するとの報告もあります。樹木の存在は都市部のヒートアイランド現象の緩和にも寄与するとされ、空気中の浮遊粒子を捕集して大気浄化にも貢献します。このような緑地としての機能は、気候変動対策や都市環境の改善において一つの意義があります。
生物多様性保全への貢献
整備されたコース内外の森林や池、芝地は、多種多様な生物の生息地となることがあります。実際にイノシシやシカ、野鳥、昆虫などがゴルフ場に姿を現す例が増え、「緑の回廊」として動植物を受け入れる役割を果たしていると見る向きもあります。ゴルフ場ではコース整備の際に野草を残す区画を設けるなど、自然共生を図る工夫が行われています。適切に管理すれば外来種の侵入が抑えられ、水辺環境を保持することでメダカやカエルなど水生生物の生育にも好影響を与えられます。
地域コミュニティ・健康促進への貢献
ゴルフ場は単なるスポーツ施設ではなく、地域住民の憩いの場や観光資源となる面もあります。施設の緑豊かな景観は地域の生活環境を潤し、来訪者に四季折々の自然体験を提供します。またゴルフはウォーキングを伴うスポーツであり、健康増進の観点でも注目されています。そのためゴルフ場は、スポーツ振興や健康寿命延伸への貢献、地域雇用の創出といった社会的役割も果たしていると言えます。
まとめ
ゴルフ場が環境破壊を引き起こすとの懸念は、主に造成や管理に伴う農薬・水使用・森林破壊などから生じます。しかし近年は規制・技術・意識の面で大きな変化が起きています。多くのゴルフ場が農薬使用の最適化や節水・省エネ技術導入に取り組み、造成時には森林を保全する法律が定められています。また先進事例では水使用の大幅削減や再生可能エネルギー利用など具体的な成果も出ています。つまり、ゴルフ場は従来型のままでは確かに環境に負担をかけますが、環境配慮型の管理と設計によって持続可能性を高めることは可能です。ゴルフ場には環境負荷を軽減しつつ、緑地としての機能やコミュニティへの貢献を最大化する役割が期待されています。ゴルフ場選びや運営の際には、こうした最新動向や環境対策の有無にも注目したいものです。